木村尚研究室のブログ

北海道科学大学(2014年4月に北海道工業大学から改名)の工学部・電気電子工学科および北方地域社会研究所(RINC)の木村尚仁研究室のブログです。

2020/06/24 ブックカバーチャレンジ再録

先々週末,友人から「ブックカバーチャレンジ」というのがfacebookで廻ってきたので,ルールが良く分からないことをいいことに,2020/06/14 〜 06/20 の7日間,好きなように本を紹介しました。
ただ折角facebookに投稿して,それだけにしておくのは惜しくなったのでこのブログに再録することにしました。原則,facebookに書いた記事から修正・加筆はしていません。一部,参考のためハイパーリンクを貼ったところはありますが。
 

 

1日目         

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上浦 庸司君からブックカバーチャレンジ のバトンを受け取りました。ルールが良く分からないまま,勝手に早速始めます。
 

1日目,今まず紹介するとしたらこの本ですね。 

「すみっコぐらし ここがおちつくんです」
(絵と文 よこみぞゆり,発行 主婦と生活社,2014年)

もう,なんかね,私も隅に嵌って落ち着いていたいよ。
私は,自分のアイデンティが掴めない不安を抱えて常に迷い考え続けているぺんぎん(?)が一番好きなのですが,しろくまも,ねこも,とんかつも,えびふらいのしっぽも,とかげも,ほかのみんなもそれぞれに影を抱えているところが何とも堪りません。
特に「ねこ」と「とかげ」のエピソードには,胸が締め付けられます。
ええ,映画を観たときは泣きましたとも。

 

 

2日目          

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ブックカバーチャレンジ ,7日間の2日目です。

今日は2冊ペアで。

 

まず「アインシュタイン選集 第1巻」。この巻には特殊相対性理論などの比較的初期の論文と解説を収録。大学生の頃これを読み,相対性理論の最初の論文が「運動する物体の電気力学について」であることを知り,なんでこんな地味なタイトルにしたのだろうかと訝しく思ったものです。物理学のみならず科学,あるいは人間の認識の根底に関わる重要な内容を論じているのだから,どうしてそれをタイトルに盛り込まないのかと。でもこれは,物理学上の具体的な問題にしっかり立脚して論じていることこそが大事だということに,後年気がつきました。

 

ある意味その対極にあるのが旧ソ連でかつて生物学界を席巻したルイセンコ学説。確か院生の頃にこの件に関心を持ち,色々調べて本も買ったりしました。この「ルィセンコ學説」もその1冊で,神保町の明倫館で入手したはず。この学説は1930年代,当時のソ連のルイセンコによって提唱された生物学上の理論で,生後の獲得形質が遺伝するというもの。これが思想上,ソ連共産党のイデオロギーと合致したため強いバックアップを受け,反対に従来の遺伝学に基づく生物学が迫害されました。そのソ連社会への影響はあまりに大きかったようです。皆さんもこの件はご存知かとももいますが,あまり良く知らないという方は,結局wikipediaが一番良くコンパクトにまとまっているかな,そちらをご覧ください。ここで説明すると長くなるから。

 

このルイセンコ学説は一見科学的に見え,日本でもこの学説を支持する研究者は少なくはなかったようです。この本は,どちらかというと支持する側の立場の研究者による論考を編集したものです。その後の歴史を知った上で読むことで,一層興味深い内容となります。

ルイセンコ学説は科学風は装っていて,哲学的に意味ありげだけど,所詮はしっかりした事実には基づいていない。今の言葉でいうとエビデンスに乏しかった。結局この学説はその後は否定され,途絶えることになります。

 

話が飛ぶようですが,こういうことを調べていく内に,自分自身,抽象的な事柄について論じるときに,それが具体的には何に立脚しているかを忘れてはいけないということをかなり意識するようになりました。ときどき忘れがちではあるのだけど。

 

「木を見て森を見ず」と言い出す人の中にはときどき,森が木の集まりであることを忘れているんじゃないかと思わされることがあります。全体像の把握と具体的立脚点の確認は,両端にあるのではなく常に強く結びついているのであって,それをできるだけペアで意識したほうが良い。その時その時で,どちらに充填を置くかはあるにせよ。

 

なんてことを考えさせられながら読んでいたことを本棚を眺めて思い出したので,思い出と一緒に紹介しておきます。

 

 

3日目         

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ブックカバーチャレンジ ,7日間の3日目。
 
「キリンヤガ」
(マイク・レズニック,ハヤカワ文庫)
 
絶滅に瀕したアフリカのある種族をまるごと移住させ,元々の文化や環境をほぼ完全な状態で維持している小惑星を舞台としたオムニバス長編小説。
 
民族の文化や環境を「維持」するために極めて矛盾したことを行わざるを得なかったり,伝統を守るために新しい発想や好奇心までも押し殺すことによって悲劇が起こってしまったり……。
 
文明の発展と伝統の維持の対立という,比較的良くあるテーマではあるのだけど,かなり異なる視点から矛盾を矛盾として描いた大変素晴らしい小説です。
うっかり「パパラギ」なんかに感動してしまった人(かつての自分だ)に読んで欲しい。
 
以前にも本を紹介する企画があったときに,この本を取り上げたかったのですが,残念ながら今は通常では入手ができない状況なので,そのときは企画趣旨から断念しました。
折角なので,この機会に改めて紹介します。

 

 

4日目         

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ブックカバーチャレンジ ,7日間の4日目。

「BASICによるプログラミング・スタイルブック」
(林晴比古,日本ソフトバンク)

 

プログラミングの本で何を大げさなと思われかねませんが,これは今に至る私の考え方の根本が影響を受けた本です。

……プログラミングセンスの実体とはなんであろうか。それは「自然」という語だ。よいプログラムには,この

―― 自然である

という通奏低音が常に流れているのである。美しいプログラムはよいプログラムである。 

と,この本の「はじめに」に書かれています。ちなみに著者の林氏は,様々な言語でのプログラミングについて,標準的かつ良質なテキストを数多く書かれている方です。

 

当時特にプログラム言語の中でも低く見られがちだったBASICを題材に,林氏はBASICでもここまで美しいプログラムが作れるということを,具体的な例を書きながら解説し,実証しているのがこの本。

 

本文では実際に極めて具体的にBASICのコードとその説明を書かれているだけなのですが,その中に上記の著者の哲学が常にはっきり自然に見えてきます。

ちなみにここでの「哲学」は学問としてではなく,根本の考え方,やり方というような意味ね。

 

学生の頃この本を読んで,

  • できるだけ物事は無理をせず自然に進むようにする,選択肢があるときはよりナチュラルな方を選ぶ,無理があるとしたら何かが根本的に誤っていることをまず疑う。
  • 根本の考え方や哲学は具体的な事柄を通して表現すべき。多くの場合それを生身で表に出して議論しても,大抵は不毛なことにしかならない。

という考えに至りました。これは今でも自分の考え方や行動の基本原理になってます。

 

もうひとつ,今に至るまで書類管理は,この林晴比古氏のパソコン書斎整理術と山根一眞氏の山根式袋ファイルシステムを自分なりに折衷した方法で行っています。おかげで古い書類についても,ほとんどの場合困ることはなく,それで駄目なら諦めが付くと言い切れるぐらい役に立っています。

 

 

5日目         

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ブックカバーチャレンジ ,7日間の5日目。
 
泡坂妻夫(1933-2009)は,愛すべき名探偵「亜 愛一郎」の生みの親でマジシャンとしても名を馳せ,本職は紋章上絵師というミステリー作家。
この泡坂氏をテーマとした
「魔術文学館へようこそ ミステリ作家・泡坂妻夫展」
小樽文学館 により企画され,2016年に開催されました。
これはそのときのパンフレットです。
写真の1枚目がおもて表紙,2枚目がうら表紙。
発行は小樽文學舎。
 
ミステリー小説家,奇術師,紋章上絵師,全ての面での泡坂妻夫氏の魅力が存分に味わえる素晴らしい展示でした。

 

 

6日目         

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ブックカバーチャレンジ ,7日間の6日目。

今回も2冊ペアで。

 

ディラックの名前を最初に知ったのは,「百億の昼と千億の夜」の中でした。光瀬龍の原作よりも萩尾望都のマンガ版が先で。中学生の頃か?

萩尾望都さんは言うまでもなく名作がたくさんありますが,私にとってはやはり「11人いる!」と,この「百億の昼と千億の夜」がベスト。写真の本は,後に1994年に出された文庫版ですが。

この作品の中のキーとなる場面で「ディラックの海」という言葉が何度か出てきます。その何だか不思議な語感の名前と言葉が印象的で,ずっと記憶に残ることになります。

 

大学1年生の後半頃だったと思いますが,ちょっとは大学生らしい勉強をしようかなと,名著と言われていたデイラックの「The Principles of Quantum Mechanics」を読んでやろうと思い立ちました。しかも英語の原著で。当時みすず書房から出ていたリプリント版ですが。ちなみに日本語訳は岩波から「量子力學」として出版されています。でも案の定,最初からこれば難しすぎた。中の書き込みを見ても,結構最初の方で早々に読み進めるのに挫折していたことが分かります。残念ながらこの本は,その後も先を読んだ記憶はありません。(^_^;)

 

ディラックはいわば変人系天才物理学者の代表格。理論は地図に例えられることがあり,地図と現実を混同してはいけないと良く言われます。ところが稀に例外もある。まだ未踏査で測量がされていないため,地図に空白部分がある。ディラックはその量子力学理論上の空白部分を,自分の物理学上の美的感覚で自分が美しいと思う地図を描いて穴埋めをした。そしたらなんと! 実際に測量したらデイラックが描いた通りの地形だった……というような人です。

 

そんな天才だって,やはり迷走することがある。巨大数仮説という,ロマン溢れる面白い理論を提唱しますが,これはその後は見向きもされなくなってしました。

 

ディラックの業績は多岐に渡りますが,物理理論そのものだけではなく,自分の理論のためのツールを独自に作り出し,それらがまた今に至るまで広く応用され使われている人類の財産となっています。デルタ関数とかブラ−ケット記法とか。

彼自身も,まさか自分の考案したブラ−ケット記法が,後に量子力学をベースとするコンピュータの基礎理論のために使いまくられることになるとは想像もしていなかったことでしょう。

 

 

7日目         

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ブックカバーチャレンジ ,7日間の7日目,最終日です。

 

「世界の奇書 総解説」

 

皆さん,心が疲れているとか荒んでいるとかで,このままじゃ寝付けないなというときに眺める本って,それぞれにきっとお持ちかと思います。

 

私の場合,今は初日に紹介したすみっコのシリーズがそれなのですが,その前はこの本に頼っていました。

世の中にはこんなとんでもない本があるのかとか,こんな奇妙なことを考える人もいるのかとか,いったい誰がこんな訳の分からない本を書いたんだろうかとか,思いを馳せていると何だか心が癒やされましてね。枕元に置いておいて,いつでも見れるようにしていました。

 

ただこの本自体がまた変わっていて,章ごとの概説みたいな文章は一応あるのですが,本全体の序文的なものとか,あとがきみたいなものが一切なく,誰が全体の編集をしているのかも全く分からない。後はひたすら各書籍の紹介・解説をしているという不思議な本です。「総解説」はシリーズになっているようですが,皆んなこんな感じだったのでしょうかね。

 

【お終い】